映画と小説を愛でるブログ

基本ネタバレしてます。見た映画や小説の感想をひたすら残すブログ。

十六夜荘ノート*古内一絵…★4.2

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8月なので、何か第二次世界大戦をテーマにしている本を読みたいと思いこの本を手に取りました。

戦時中と現代を行き来しながら進む構成となっており、それぞれの時代に登場する人物描写がしっかりしていて飽きること無くあっという間に読んでしまった作品です。

特に主人公である雄哉が物語が進むにつれ変化していく様を見て、自分もそんな風に変わりたい、そうなりたいと羨ましくもなりました。

 

 

 

あらすじ

 

 

ある日突然大叔母から十六夜荘を遺産として受け継ぐことになったビジネスマンの雄哉。

初めは十六夜荘を取り壊し土地活用しようと考えていたが、大叔母の事を調べる内に自分が知らなかった大叔母の生きてきた過去、存在もよく知らなかった大叔母の兄のこと、戦時中という逆境に負けず十六夜荘であった邸に集っていた芸術家たちのことを知ることになる。

大叔母、十六夜荘に自分のルーツを感じ出した雄哉にも少しずつ変化が見られだし…

 

 

 

レビュー

 

 

この小説にわたしが感じた魅力は大きく言って二つあります。

 

一つは主人公の雄哉の心理的変化、そしてもう一つは戦時中に登場する芸術家たちがとても魅力的で生命に溢れていることでしょうか。

 

雄哉は初めは成果主義で周りと上手くいっておらず、本人はそのことにすら気付かないとう人間味に欠ける面がありましたが、十六夜荘との出会いにより価値観や生き方が大きく変わったように思います。

 

 

「自分が見たいと思わない限り、何も見えてこないものなのかも。」

 

 

作中に雄哉の思いとして出てくるこの一文に、わたしは感銘を受けました。

 

慌ただしく追われるように生活をしていると、固定概念が作り上げられてしまったり、物事を多面的に見ることが難しくなってしまうなと普段生きていて感じており、もっとたくさんの事を感じて世界を広げたいのに上手くいかないとジレンマを感じていました。

 

だけどやっぱりどう生きていくのか、何を見て、何を思うのか、決めて歩いていくの自分なのだと。このまま何も変わらずにいたら、真実に気付けなかったり、自分が想像もしていなかった新しい世界に気付けない、なんてこともあり得るのだと改めて考えさせられました。

 

雄哉の変化が少し羨ましいですね…

人生観が変わるような出会い、なかなかありません。

 

 

そして何より一鶴の周りに集った芸術家たちの事がとても印象に残り、様々な思いにさせられました。

生命に溢れ、魅力的だった彼ら。

みな本当は戦争なんかしたくないし、戦争になんかいきたくない。

好きな絵を書き、芸術家でいたい。

現代ではたったそれだけの望み。それさえ叶わなかった時代が確かにあったのだということ。

未来溢れる若者だった彼らも、時代の波に逆らえず戦争にいき生きて戻ってくる事はなかった。

 

戦争って本当になんなんだろう。

言いようのない空しさが胸に広がりました。

 

ただ、現代で彼らの描いた絵が多くの人の目に触れ、心を動かすきっかけになっていることで少し救われました。

戦争について改めて考えるきっかけになり、心も満たされる作品でした。

 

十六夜荘ノート (中公文庫)

十六夜荘ノート (中公文庫)